2016/08/17 「限界工事量」割れ地域拡大/災害時の対応を懸念/補正予算、実態考慮した配分必要

【建設工業新聞 8月 12日 2面記事掲載】

地域建設業者向けの工事が減少し、災害時の応急対応などに当たる体制を維持できなくなると危惧する声が強まっている。冬場の除雪を含め災害対応業務が増える一方、いざという時のために備えておく熟練した人材や専用機械を維持するのに最低限必要な「限界工事量」を割り込む地域が増えている。2日に決定した経済対策で政府は、「生活密着型インフラ整備」を打ち出した。秋に編成される補正予算で、地域の実態を考慮した予算配分がどの程度行われるかが大きな関心事になりそうだ。

限界工事量は、地域の建設会社が人員や機械を維持するために必要な最低限の工事量。これを下回れば、除雪や自然災害への迅速な対応に悪影響が出てくる可能性がある。この概念を打ち出した群馬県建設業協会(青柳剛会長)は、災害対応の観点からもう一度地方の建設業のあり方を見直す必要があるとしている。

群馬県内の建設投資額(出来高ベース)は、1996年度には1兆3221億円あったが、20年後の2015年度には4割減の7824億円まで落ち込んだ。災害対応を担う地域企業の受注総額も6000億円程度から3分の1の2000億円を下回る状況に陥っている。一方、災害の頻発化で対応業務は増えていることから、実際の受注量が限界工事量を割り込む状況がここ数年続いている。12年度の大型補正予算の効果で13年度はギャップが縮まったが、その後は再び拡大。群馬建協は「今のままでは災害対応がどんどん厳しくなっていく」と指摘する。

除雪や道路啓開のような災害対応では、企業単体で担う部分は限定的で、ネットワークで対応することが不可欠。限界工事量を割り込む地域が拡大し、災害に対応できる会社が欠けていくことは、地域の安全・安心の確保が難しくなっていくことを意味する。群馬建協傘下の企業も6割が「限界割れ」を起こしているとし、「一定の受注量がないと体制を維持できない」と窮状を訴えている。

全日本漁港建設協会(長野章会長)も、災害対策上必要な作業船を保有して漁港建設を担う730業者の維持に最低で年間1450億円の事業費が必要と試算。その確保を水産庁に求めた。

補正予算をめぐり、建設業界が人手不足だとして公共工事の執行を不安視する意見があるが、業界はこうした見方を否定。石井啓一国土交通相も、人材の需給は均衡しており、「現場で技能労働者を確保できない状況にはない」との認識を示している。

自民党国土交通部会が2日に開いた会合では、一部地域の選出議員から、「仮に人手不足という地域があるのなら、そこからうち(の地域)に予算を回してもらいたい」といった意見も出た。

経済対策では、生活密着型インフラとして、鉄道立体交差やホームドア設置、高齢者や障害者が暮らしやすくなる街のバリアフリー化、無電柱化、交通安全対策、上下水道整備などを列挙している。限界工事量を割り込むことがないよう、地域の建設業者を意識したこうした事業に予算がどれだけ配分されるかが大きな焦点の一つになる。

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