2016/09/29 国交省/働き方改善へ取り組み推進/産業構造や労働慣行、踏み込んだ議論必要

【建設工業新聞 9月 29日 1面記事掲載】

国土交通省は、建設業の働き方の改善に向けた取り組みをさらに進める。27日に初会合が開かれた政府の「働き方改革実現会議」(議長・安倍晋三首相)で石井啓一国交相は「建設現場へのICT(情報通信技術)導入や適正な賃金水準の確保など働き方改革に既に着手している。さらに積極的に取り組む」と表明した。長時間労働の是正や現場の週休2日などの実現には課題も多く、これまで以上に踏み込んだ検討が求められている。7月の中央建設業審議会(中建審、国交相の諮問機関)に提示された今後の建設産業政策を議論するために設ける新たな場でも「働き方」がテーマの一つになりそうだ。

15年の建設業の就業者は約500万人。うち約3割を55歳以上が占め、他産業と比べて高齢化が進行している。こうした現状を踏まえ、働き方改革実現会議の初会合で石井国交相は「(建設業は)長時間労働や低い賃金の是正といった課題を抱えており、将来の担い手を確保する観点からも働き方改革は待ったなしの課題だ」との認識を示した。

同会議で安倍首相は長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現など計9項目の議論を進め、年度内に包括的な実行計画を策定し、来年の通常国会にも関連法案を提出する意向を表明。「働き方改革は構造改革の柱だ。先送りは許されない」と強調し、高齢者の就業促進や外国人人材の受け入れ拡大など、産業全体の労働生産性の改善にスピード感を持って取り組む考えを示した。

長時間労働の是正では、現在は事実上無制限に時間外労働を課すことができる「36(さぶろく)協定」を見直し、残業時間に実効性のある上限を設けることを検討する。

建設産業の労働環境の改善に向け、国交省は13年4月以降4回にわたって公共工事設計労務単価を引き上げたり、直轄工事で社会保険未加入の1次下請企業を排除したりするなど、賃金や雇用の安定、人生設計に関する取り組みを実施。建設現場の生産性向上策「i-Construction」の推進や週休2日モデル工事拡大、教育訓練の充実など長時間労働の抑制や休暇取得、人材育成にも力を注いでいる。

こうした成果が着実に浸透していくことに期待が高まっている一方で、建設業の就業者を取り巻く状況は依然厳しく、労働者の年収も製造業と比べて低い。就業規則などに定められた時間内の実労働時間は長く、平均的な休暇日数は4週で4・6日にとどまっているのが現状だ。技能労働者はほぼ日給月給制(日給月払い)で日数を多く働いた方が月給が増えるため、休暇取得のインセンティブが働きにくく、結果として所定内労働時間が多い傾向となる。

労使間で36協定を結ぶと、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働が可能となり、時間外労働には厚生労働省の告示で「週15時間・月45時間」の上限が設けられている。だが、建設業は天候などの自然条件に左右されるため上限規定の適用除外となっている。

中建審で国交省が設置を提案した今後の建設産業政策を議論するための新たな場については、現段階で具体的な構成やテーマは明らかになっていない。労働集約型受注産業の建設業で働き方改革を実現するには、過度な重層下請構造や繁閑の差が大きいことなども踏まえ、産業構造や労働慣行など特有の課題に踏み込んだ改善策が必要となることから、新たな議論の場でどのように取り上げられるかが注目される。

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