2014/7/29 建設再興-適正利潤・下/設計変更、上限の非合理/「30%」は運用の目安
【建設工業新聞 7月 29日】
◇調達協定の趣旨曲解?
6月までに全国9地区で開かれた日本建設業連合会(日建連)と国土交通省や自治体など公共発注機関による意見交換会。この会合で公共工事の設計変更が議題の一つに上り、これまであまり表立って取り上げられることのなかった上限ルールについて意見が交わされた。
日建連側は設計変更の上限額に関する規定、いわゆる「30%ルール」などを柔軟に運用するよう要望。これに対し国交省の地方整備局からは「30%を超えないための知恵を出し合うことも必要」(北陸)、「30%は呪縛というか現場の裁量で認める、認めないがあり、事例を集めたい」(中部)といった見解が示された。
□ルール化□
この30%ルールとは何か。1969年3月、当時の建設省東北地方建設局長が官房長に対して照会を求めた文面にこう書かれている。
「変更見込額が請負代金の30%を超える工事は、現に施工中の工事と分離して施工することが著しく困難なものを除き、原則として、別途の契約とする」
別途契約とせずに設計変更で対応できる上限について確認を求めたもので、官房長は「やむを得ないものと了承する」と応じた記録が残されている。このやり取りが「工事契約実務要覧」に記載され、設計変更の運用で上限30%がルール化される発端になった。
ただ、上限30%に法的根拠はなく、その数値は運用上の「目安」でしかない。ところが、地方自治体など一部発注機関では、30%を超す追加工事費が発生した場合、「30%以上の契約変更は認めない」といった運用がなされ、受注者との間でトラブルになるケースもあった。自治体の工事では一定の上限を超す契約変更は議会の承認も必要になる。
現場運営に詳しいあるゼネコン役員は「一定の目安があるのはいいが、必要な変更であるにもかかわらず、ある上限を超えると議会に報告しなければならないので認めないというのはおかしい」と強調する。
□国交省通達□
今年2月、この30%ルールの運用をめぐり新たな動きがあった。国交省は13年度補正予算の執行に伴う通達の中で、「分離して施工することが著しく困難な工事については、既契約工事に追加することで、早期執行を図る」と明記。別途契約を基本としながらも30%を超す契約変更も認める柔軟な対応への見解を示した。だが、通達の内容が自治体などに広く浸透しているとは言えないのが現状のようだ。
一方、1996年1月に発効したWTO(世界貿易機関)の政府調達協定では、「限定入札」に関する条項で「当該追加の建設サービスのために締結する契約の総価額は、主たる契約の額の50%を超えてはならない」(第15条)と規定。この運用をめぐっても受注者が受け入れがたい事態に直面するケースがあるという。
業界関係者によると、政府調達協定が適用されたある工事で、50%を超す追加工事費が発生。発注者から同条項への抵触を理由に上限からの超過分の精算を一方的に断られた。政府調達協定の適用対象工事は規模も大きいだけに、受注者が被る損失は小さくない。
この条項は、入札の公平性確保を目的にした規定だが、草柳俊二高知工科大学特任教授は「日本の公共工事の遂行特性によって曲解され、本質と異なる運用がなされている」と指摘する。その上で「WTOが発注者の支払うべき追加費用額に上限打ち切りを設けるといった不公正条項を設定するとは考えられない。条文を読み込めば、本質は別途調達するはずだった工事を対象としたものであり、契約条件の変更に伴う追加工事費の支払いに関して定めたものではないことが分かる」と話す。
この条項には、協定のルールを逃れるために、当初の契約を協定適用基準額未満で結び、その後の変更で金額を増加させるといった不公正な行為を防止する目的があるとされる。しかも14年4月に発効した改定後の協定には「…主たる契約の額の50%を超えてはならない」の文言は書かれていない。
しかし、協定の対象となる建設工事も発注している東日本高速道路会社は「(4月の)改定で明文化されなくなったが、当社の調達規定ではこれまでの思想(50%超は認めない)を引き続き維持し、運用を特に変更していない」と説明する。
□契約管理□
当初の設定条件が変わることも多い建設工事では、形式論にとらわれず、現場の状況に応じて適切かつ柔軟に判断をしていくことが必要になる。だが、現行の公共工事の契約規定では対応が難しいケースは多い。改正公共工事品質確保促進法の実効を上げるには、契約管理を含めた執行プロセスの課題を把握し、規定の見直しや柔軟な運用につなげていくことが求められる。(「建設再興」取材班)
6月までに全国9地区で開かれた日本建設業連合会(日建連)と国土交通省や自治体など公共発注機関による意見交換会。この会合で公共工事の設計変更が議題の一つに上り、これまであまり表立って取り上げられることのなかった上限ルールについて意見が交わされた。
日建連側は設計変更の上限額に関する規定、いわゆる「30%ルール」などを柔軟に運用するよう要望。これに対し国交省の地方整備局からは「30%を超えないための知恵を出し合うことも必要」(北陸)、「30%は呪縛というか現場の裁量で認める、認めないがあり、事例を集めたい」(中部)といった見解が示された。
□ルール化□
この30%ルールとは何か。1969年3月、当時の建設省東北地方建設局長が官房長に対して照会を求めた文面にこう書かれている。
「変更見込額が請負代金の30%を超える工事は、現に施工中の工事と分離して施工することが著しく困難なものを除き、原則として、別途の契約とする」
別途契約とせずに設計変更で対応できる上限について確認を求めたもので、官房長は「やむを得ないものと了承する」と応じた記録が残されている。このやり取りが「工事契約実務要覧」に記載され、設計変更の運用で上限30%がルール化される発端になった。
ただ、上限30%に法的根拠はなく、その数値は運用上の「目安」でしかない。ところが、地方自治体など一部発注機関では、30%を超す追加工事費が発生した場合、「30%以上の契約変更は認めない」といった運用がなされ、受注者との間でトラブルになるケースもあった。自治体の工事では一定の上限を超す契約変更は議会の承認も必要になる。
現場運営に詳しいあるゼネコン役員は「一定の目安があるのはいいが、必要な変更であるにもかかわらず、ある上限を超えると議会に報告しなければならないので認めないというのはおかしい」と強調する。
□国交省通達□
今年2月、この30%ルールの運用をめぐり新たな動きがあった。国交省は13年度補正予算の執行に伴う通達の中で、「分離して施工することが著しく困難な工事については、既契約工事に追加することで、早期執行を図る」と明記。別途契約を基本としながらも30%を超す契約変更も認める柔軟な対応への見解を示した。だが、通達の内容が自治体などに広く浸透しているとは言えないのが現状のようだ。
一方、1996年1月に発効したWTO(世界貿易機関)の政府調達協定では、「限定入札」に関する条項で「当該追加の建設サービスのために締結する契約の総価額は、主たる契約の額の50%を超えてはならない」(第15条)と規定。この運用をめぐっても受注者が受け入れがたい事態に直面するケースがあるという。
業界関係者によると、政府調達協定が適用されたある工事で、50%を超す追加工事費が発生。発注者から同条項への抵触を理由に上限からの超過分の精算を一方的に断られた。政府調達協定の適用対象工事は規模も大きいだけに、受注者が被る損失は小さくない。
この条項は、入札の公平性確保を目的にした規定だが、草柳俊二高知工科大学特任教授は「日本の公共工事の遂行特性によって曲解され、本質と異なる運用がなされている」と指摘する。その上で「WTOが発注者の支払うべき追加費用額に上限打ち切りを設けるといった不公正条項を設定するとは考えられない。条文を読み込めば、本質は別途調達するはずだった工事を対象としたものであり、契約条件の変更に伴う追加工事費の支払いに関して定めたものではないことが分かる」と話す。
この条項には、協定のルールを逃れるために、当初の契約を協定適用基準額未満で結び、その後の変更で金額を増加させるといった不公正な行為を防止する目的があるとされる。しかも14年4月に発効した改定後の協定には「…主たる契約の額の50%を超えてはならない」の文言は書かれていない。
しかし、協定の対象となる建設工事も発注している東日本高速道路会社は「(4月の)改定で明文化されなくなったが、当社の調達規定ではこれまでの思想(50%超は認めない)を引き続き維持し、運用を特に変更していない」と説明する。
□契約管理□
当初の設定条件が変わることも多い建設工事では、形式論にとらわれず、現場の状況に応じて適切かつ柔軟に判断をしていくことが必要になる。だが、現行の公共工事の契約規定では対応が難しいケースは多い。改正公共工事品質確保促進法の実効を上げるには、契約管理を含めた執行プロセスの課題を把握し、規定の見直しや柔軟な運用につなげていくことが求められる。(「建設再興」取材班)
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