2015/06/08 電子記録債権活用に不安の声/公共工事代金、早期現金化は「完工意欲そぐ」

【建設工業新聞 6月 8日 1面記事掲載】

国や地方自治体が発注した公共工事の支払いに電子記録債権を活用しようという動きを不安視する声が建設業界の関係者に広がっている。工事の未完成部分に対応した請負代金債権の譲渡を無制限に認めて早期の現金化が広がれば、完成への意欲がそがれてしまう可能性があるとの指摘だ。改正公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)で「受注者の責務」とされた公共工事の適正な実施が果たせなくなるのではないかとの声もある。金融庁の有識者グループが4月にまとめた中間整理で、電子記録債権が活用されていない分野として「公的機関の支払い」を挙げ、活用に向けた検討を促した。公共工事の代金支払いを指したとも受け取れるこの指摘に、建設業界では公共工事標準請負契約約款で原則禁止されている請負代金債権の譲渡が進むことによる影響を不安視する声が高まった。

中央建設業審議会(中建審、国土交通相の諮問機関)が作成・勧告する同約款が債権譲渡を禁止しているのは、工事の完成で得られる請負代金の債権を手放すことで請負業者が完工意欲を失い、工事が適正・円滑に施工できなくなることを防ぐことが大きな目的。電子記録債権の活用で債権譲渡が進むことは、この約款の思想に逆行する可能性がある。仮に債権譲渡後に設計変更が行われ、当初の請負代金が減額変更となった場合の対応などを含め、電子記録債権を公共工事の支払いに活用していくためには、解決しなければならない課題も少なくない。電子記録債権を利用するには、登録や利用料金の支払いなど手間やコストもかかる。債権譲渡で現金化する際には手形と同様に割引があるため、資材や労務に支払うための資金が目減りすることも懸念される。公共工事の場合、原則として前払いで請負代金の4割、中間前払い同2割が支払われる。

このほかにも、出来高部分払いや請負代金債権の譲渡を特別に認めてそれを担保に融資を受ける制度(地域建設業経営強化融資制度や下請セーフティーネット債務保証事業)が用意されている。元請・下請間の取引に電子記録債権を活用する動きは一部にあるが、公共工事の代金支払いに活用すれば市場に混乱を来すとみる関係者は少なくない。地域建設業経営強化融資制度などが前提とする出来高査定も行われなくなる上、債権譲渡で調達した資金の使途が限定されなければ、下請や資材業者への支払いが適切に行われなくなると懸念する声も出ている。先行きにはまだ不透明な部分も多いが、業界関係者は、今後の金融庁の検討を注視していく必要がありそうだ。

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