2015/12/03 ゼネコン大手/下請の社保加入促進に本腰/法定福利費支払い徹底、2次以下へ指導も

【建設工業新聞 12月 02日 1面記事掲載】

大手ゼネコン5社が、専門工事業者に社会保険加入を促す取り組みを本格化させている。1次下請業者との契約で、社会保険加入の原資となる法定福利費の必要額を確保。2次以下の下請業者や労働者単位での加入促進といった課題への対応にも乗りだしている。業界をリードする大手5社の取り組みがどう波及していくか、注目が集まる。

各社が1次下請との間で行っているのは、▽法定福利費を内訳明示した見積書を提出させる▽内訳明示が難しい場合は理由を説明させ、法定福利費の算出方法を指導▽技能労働者全員の社会保険加入を前提に見積書の法定福利費の過不足を精査・協議▽法定福利費を内訳明示して契約を締結-といった取り組み。細部に多少の違いはあるものの、具体策はおおむね共通している。

国土交通省は、17年度をめどに許可業者ベースで加入率100%、労働者ベースで製造業並み加入率(約90%)の達成を目標に掲げる。日本建設業連合会(日建連)は今年3月に策定した「社会保険加入促進実施要領」で、15年度以降、社会保険未加入の1次下請とは契約を結ばず、16年度以降は2次以下の下請で未加入の業者とは契約しないよう1次下請を指導することを打ち出した。

各社の取り組みはこれを具体化するもので、それぞれの協力会社組織と協議を重ねて対策を実行。1次下請業者の加入率は100%に近づいている。

一方、2次下請業者の加入率は50~60%にとどまるとされ、これをどう引き上げていくかが、次の大きな課題となる。日建連の実施要領では、1次下請を通じて2次下請の加入促進を指導することになっているが、「1次下請に任せっきりでは駄目。元請が積極的に働き掛けていかなければならない」(鹿島)として、各社は2次下請対策にも本腰を入れ始めている。

大林組は「2次下請の経営者を対象に社会保険労務士の講演会を開いたり、予約制(無料)で説明会を行ったりしている」という。まず社会保険加入の必要性を理解してもらうために経営者の意識改革を促す取り組みだ。

国交省の直轄工事で専門工事業者の加入率100%という先行事例を持つ大成建設は「民間工事や突貫工事で加入業者をどれだけ集められるか。16年4月から作業所に社会保険未加入の専門工事業者がいなくなるような方策を講じる」として具体策を検討中だ。

社会保険未加入の2次下請を現場から排除すると、施工体制の確保が困難になると危惧する声は多く、有効な対策が求められる。

労働者単位での加入促進も課題だ。特に、年金などで加入期間が短いために受給条件を満たさないとの理由で作業員自身が加入を拒むケースがある。50代以上のベテラン技能者に多く、無理に加入を勧めると他社に流れてしまう懸念もある。社会保険加入を回避するために、加入義務が適用除外となる従業員4人以下の会社や一人親方が増える可能性を指摘する声もある。

こうした状況下でも、清水建設は加入促進の目標を公表。労働者単位では、やむを得ない高齢者を除いて16年度までに100%、17年度からは高齢者も含め100%の加入率を目指すという。

下請業者の社会保険加入率が低いのは、経営体質がぜい弱で法定福利費の負担が重いことが大きな要因だ。大手5社は元請として「100%加入のための原資」を確保する方針を打ち出したが、今後はこうした取り組みを元請業者全体に広く浸透させることが必要になる。ある専門工事業の経営者は「元請の足並みがそろっていない。法定福利費をくれない元請があると社会保険料を確保できない」と訴えている。

日刊建設工業新聞の購読申し込みは、こちら

戻る