2015/12/11 技能者経験蓄積システム/社保加入・業務省力化に効果/ゼネコン、期待の声と課題指摘

【建設工業新聞 12月 11日 1面記事掲載】

建設現場で働く技能労働者の就労状況などのデータを蓄積する「建設技能労働者経験蓄積システム」に対し、元請となるゼネコンからさまざまな期待や課題を指摘する声が出ている。担い手確保の一環として官民で取り組む技能労働者の社会保険加入促進や現場業務の省力化などへの効果に期待する声が多い一方、費用負担やセキュリティー管理など運用面の課題を指摘する意見も出ている。

日刊建設工業新聞社は、ゼネコン準大手24社を対象に下請の社会保険加入促進に関するアンケートを行ったのに合わせて、建設技能労働者経験蓄積システムに対する意見を聞いた。

同システムは、国土交通省と主要建設業団体、学識経験者で組織する官民コンソーシアムが8月に検討を始めた。検討段階では、約350万人の技能労働者全員に、それぞれIDを付与した「技能者カード」を発行し、国内の全建設現場に備えるカードリーダーなどから各技能者の情報を読み取ってデータベースに情報を蓄積するとしている。17年4月からの本格運用を目指している。

アンケートに回答した21社からは、「元請が下請の社会保険加入状況を効率的に確認できる仕組みと評価」(青木あすなろ建設)、「作業員単位における社会保険の加入・未加入が確認できるようになると元請としては望ましい」(西松建設)などと、社会保険への加入状況を把握する手段の一つとして有効と捉える企業が目立った。

「建設業法施行規則の作業員名簿の代わりとなり、作業所で就労者情報を集約することで省力化・効率化につながるといい」(淺沼組)、「将来的には作業員名簿など、現場における安全衛生管理書類や業務の簡素化につながっていけばいい」(飛島建設)と、煩雑なデータ管理を伴う作業員名簿の代わりとして期待する意見もあった。

一方で、課題を指摘する企業も少なくない。「特に建築工事の場合は短期的な作業も多く、導入するには費用・業務量の増加が予想される」(佐藤工業)、「作業員の登録料や元請のシステム利用料の負担などコスト面や元請の現場管理の負担増が課題」(東亜建設工業)などと、費用負担に加え、業務量の増加につながることを懸念する意見も相次いだ。

三井住友建設は「社会保険加入を目的とするなら国費によるシステム統一を希望する。統一が無理なら、複数あるシステムのデータ乗り入れを無料で可能にしてほしい」と回答。安藤ハザマも「当社独自のシステムとのデータ提携についても今後の検討課題」と答え、自社で運用している管理システムからの円滑な移行や連携を求める意見もあった。

個人情報を多く取り扱うため、セキュリティー面の対応を課題に挙げる意見も多い。五洋建設は「導入されるIDカードは、雇用・賃金・社会保険など非常に多くの個人情報が含まれる可能性が高いため、慎重な運用を要する」、東洋建設は「活用には賛同しているが、個人情報の漏えい管理が課題」、前田建設は「情報の内容とセキュリティー管理については慎重な対応が必要だが、業界全体で取り組み、活用を目指すべき」などと回答した。

戸田建設は「就労カードが技能工のステータスになり、日常携帯することに利便性が必要」とし、携帯するカードにマネー機能を搭載することなどを提案した。

元請、協力会社、技能者、現場にとってメリットがあり、運用や費用に無理のないシステムの構築が求められそうだ。

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