2016/03/29 建設現場の生産性革命 報告書最終案まとまる/第4回 i-Construction委員会

3月28日、国土交通省はi-Construction委員会の第4回会合を開催。
昨年12月から開催されてきた会合は今回が最終回となり、先の会合で議論された
委員会報告書(案)の取りまとめが行われた。


冒頭、小宮山委員長はα碁がプロ棋士に勝利した例を挙げ、
「限定付きではあるが、21世紀にロボットがかなり知的な部分まで、きわめて重要な
地位を支えている。そういう意味でi-Constructionというもののカバーする範囲は
きわめて広い」と述べ、「本日は『i-Construction~建設現場の生産性革命~』と題する
報告書に関して議論をさせていただく。まとめの方向には行きたいと思っているが、
たいへん広い視野の中での議論であるため、調整が必要な部分があれば活発に議論いただいて
最終報告書をよりいいものにしていきたいと思う」と、挨拶した。


報告書は8章立て構成。事務局より、前回の委員の「建設現場の安全性の向上の強調」や
「トップランナー施策からいかに広げていくか」、「海外展開をはじめから意識していくべき」などの
意見に対応して盛り込まれた点を中心に解説があった。

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報告書のポイントは「はじめに」にて、
衛星測位技術やIoTの急速な発展を踏まえ、i-Constructionを進めるための視点等について、
「建設現場を最先端の工場へ」、「建設現場へ最先端のサプライチェーンマネジメントを導入」及び
「建設現場の2つの「キセイ」の打破と継続的な「カイゼン」の3つに整理したことを明記。
この視点に基づき、生産性革命実現のために以下の3つのトップランナー施策が設定され、
今後取り組むべきこととして以下の点が盛り込まれた。

<トップランナー施策 今後の取り組み>
(1)ICT技術の全面的な活用(ICT土工)
新基準の導入
ドローンを活用した測量マニュアルの整備、3次元データによる出来形管理基準・要領・
工事検査基準等の整備。
ICT建機用積算基準の導入
一定期間、i-Constructionの推進に必要な経費を支援する。
ICT土工に対応できる技術者、技能労働者の拡大。
 
(2)全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)
全体最適の導入に向けた検討
フロントローディングの考え方を導入。
調査・設計から施工、維持管理、更新までプロセス全体の最適化を図る手法を開発。
要素技術の一般化に向けた検討。
部材の規格(サイズ)等の標準化 ・・・プレキャスト化による部材の組み合わせ施工。
工場製作による屋内作業化 ・・・鉄筋のプレハブ化、永久・埋設型枠の活用。
新技術の導入 ・・・鉄筋の継手・定着方法の改善(機械式継手、機械式定着工法)、
コンクリート打設の改善(高流動コンクリート、連続打設方法)。
品質規定の見直し。
施工の自由度を高めるための仕様の見直し。
工場製品等における品質検査項目の合理化。
 
(3)施工時期の平準化
早期発注や債務負担行為等の適切な活用。
地域の実情、自然条件、休日等による不稼働日を踏まえた工期設定。
工事着手日を一定の期間内において受注者が選択できる余裕期間制度の積極活用。
年度内完成に拘らず、翌債(繰越)制度を適切に活用すること。

さらに、i-Constructionの目指すものとして
「生産性を5割向上させることで、
・企業の経営環境を改善
・現場で働く方々の賃金水準の向上
・安定した休暇の取得
・安全な現場
を実現。
労働者数が減っても生産性が向上すれば、経済成長を確保することが可能。」と示された。

各委員からの意見は以下の通り。(発言順)
 
○藤澤久美氏(シンクタンク・ソフィアバンク代表)
賃金水準の向上について、一日いくらというような働き方をしている方たちがおり、
効率化ということで働く日数が半分になるというときに、
変わらず日当のような働き方となると賃金水準が上がらないということもあり得る。
工夫をしなくてはいけない。
今まで建設労働者は地方をまわっていく、呼ばれた地域にいくという流れもあった。
これからは地域にずっといながら休みもきちんといただきながら
その地域の仕事を安心してやっていくということもあると思う。
地域に密着した形の働き方というのも可能性が出てくると書いていただくと、
より女性や高齢者には良いのではないか。
 
○田中里沙氏(宣伝会議取締役副社長兼編集室長)
これから業界に入る人については、i-Constructionの目指すものに記された安定と
安全というのは非常に有効で魅力的なキーワードになると思う。これを内部の
スローガンにして盛り上げていただきたい。
これまで現場を支えてきた先輩や担い手の技術がi-Constructionの力で継承されるのが理想。
現場で展開されたちょっとした工法や技などをデータ化し、公的なスキルにすることも
できるのではないか。
 
○小澤一雅氏(東京大学大学院 工学系研究科教授)
国民や市民には、インフラから提供されるサービスがどれだけ良くなるかというところが
直接感じられるところではないか。
生産のプロセスをもっと良くしていこうというところに留まっているが、
最終的には提供されるサービスの改善につながる創造的な活動をi-Constructionを通して
見出していくんだというところまで踏み込んで書いてもいいのではないか。
実際に新しい取り組みを試す場所をどう用意してあげるかということは非常に大事。
 
○建山和由氏(立命館大学 理工学部教授)
文章表現について、i-Constructionは国の本気度が問われていると強く感じているため、
それが伝わる表現や「やるんだ」という意志・決意が分かる表現で書いた方がいい。
現在の発注契約制度について、現在は工程ごとの契約になっている。
たとえば建設会社は施工のところに関してはいろんな改善を考えることができるが、
他の設計なり調査のところまで超えて改善の議論ができない。
こういう形だと、改善というのがそれぞれの工程の中でしか起きにくいということと、
発注者-企業という上下関係が出てくるということならびに、全体最適を考えることができるのは
発注者だけのため、全体最適がなかなか進まないのではないか。
最初に工事プロジェクトを起ち上げた時に調査会社もコンサルタントも建設会社も同時に契約してしまう。
その工事全体をみんなで一緒に考えるような仕組みができると、全体最適も全員で議論でき、
かつ発注者と企業とが対等に議論できるのではないか。
i-Constructionという新しいことをやるにあたって現在の契約発注からも見直していくのはどうか。
 
○冨山和彦氏(経営共創基盤 代表取締役CEO)
i-Constructionについてはこれから作っていく話がかなり多いはず。テストアップ的な
アプローチとそれがいろんな制度にフィードバックしていくことを明確にした方がいい。
従来の建設業界の枠を超えたいろんなコラボレーション、化学反応など、
オープンイノベーションが大事。
 
○小宮山宏委員長(三菱総合研究所理事長)
委員の中にいて仰っているのは、もう少し広げた視点も考えていただきたいということではないか。
「はじめに」のところに、オープンイノベーションに代表されるような幅広の視点、
長期(10年先くらい)に実現しているかもしれないような近未来の話を付け加えたい。
その中の第一歩をやるんだという位置づけにする。
モデル事業を作ることは重要。国が支援し、大学や学会等を利用してできれば
学会の進歩にもつながる。そういうことをどれだけ考えられるか委員と調整していただきたい。

最後に、徳山国土交通事務次官より、
「建設現場で働く全ての方々が夢と希望をもって、そして大きな生産性の中で
進められるようになっていくと思う。i-Constructionの表示についても登録が済み、
プロジェクトの名称として正式に使っていく」と挨拶があった。

報告書については、事務局が委員の意見を基に調整し、委員長の最終確認後に公表される。


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