2016/10/03 社保未加入対策/官民取り組み正念場/目標期限まで半年、2次以下下請や都市部に課題

【建設工業新聞 10月 3日 1面記事掲載】

17年度をめどに建設業許可業者は100%、労働者は製造業並みの90%に-。国土交通省が掲げた社会保険加入の目標だ。本年度に入り、行政と業界団体による社会保険加入促進の取り組みが一段と活発化している。国交省は民間工事を主な対象に社会保険加入に特化した立ち入り検査を開始。日本建設業連合会(日建連)は17年4月から未加入者の現場入場を制限する方針を打ち出した。目標期限まで残り半年。官民による対策は正念場を迎えている。

建設業の社会保険加入促進の取り組みは、技能労働者の処遇改善による担い手確保と、適正に保険料を負担する企業による公平で健全な競争環境の構築を実現するのが目的。国交省が設定した目標の達成を目指し、12年度から官民による対策が本格化している。

15年10月の公共事業労務費調査によると、3社会保険(雇用・健康・厚生年金)の加入率は企業単位で95・6%(11年10月調査84・1%)、労働者単位で72・0%(56・7%)と上昇。だが2次以下の下請や都市部の加入率は依然低いのが実情だ。

国交省は現在、社会保険加入に必要な法定福利費を確保する取り組みを強力に推進している。法定福利費を内訳明示した見積書の活用を徹底するため、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を7月に改定。内訳明示の見積書を建設業法に規定する見積もりと位置付けた上で、その提出を従来の元請・1次下請間と同様、1次・2次下請間でも見積もり条件として明示した。

労働者に法定福利費を行き渡らせ、加入促進につなげるため、内訳明示の見積書の活用状況について立ち入り検査を始めた。主に民間工事を対象に全国10ブロックすべてで実施する。国交省が社会保険に特化した立ち入り検査を行うのは初めて。地方整備局の担当者からは「一過性ではなく次年度以降も継続すべき」との声も出ている。

全国社会保険労務士会連合会と連携した取り組みもスタート。国交省の担当者が社保未加入対策について説明して回る「全国キャラバン」で、社労士による無料の個別相談会を行っている。7月には建設会社向けの無料相談窓口をすべての都道府県の社労士会に設置。相談内容に応じて選任された社労士が対応する体制を整えた。

国交省は社会保険未加入対策の一環として、14年8月に社会保険に加入していない元請業者を、15年8月には未加入のすべての1次下請業者を直轄工事から排除した。この措置を2次以下の未加入業者への対策として17年4月から適用することを検討している。

国交省の政策に足並みをそろえ、業界団体の取り組みも活発化している。日建連は国交省に呼応して9月に社会保険加入促進に関する要綱・実施要領を改正し、未加入の労働者の現場入場を17年4月から制限する措置などを追加した。全国建設業協会(全建)では会員企業の現場にいる技能労働者の加入率が3年連続で上昇し、対策の効果が着実に現れている。

専門工事業者の各団体は内訳明示した見積書の運用を促しており、法定福利費が技能労働者に行き渡るよう努めている。だが専門工事業のある経営者は適切に支払っている企業ほど手元に残る利益が少なくなるだけに、「まじめな業者がばかをみる事態にはさせないでほしい」と訴えている。

国交省は公共事業労務費調査や下請取引実態調査などを通じて加入状況をつかむ。月内に結果がまとまる調査もあり、これまで講じてきた対策の成果が問われることになる。目標期限が半年後に迫る中、国交省や業界団体は取り組みの強化に向けてアクセルを踏む。

日刊建設工業新聞の購読申し込みは、こちら

戻る