2022/10/24 処遇改善次の一手-資材高騰対応・上/民間発注者との隔たり解消へ
【建設工業新聞 10月 24日 1面記事掲載】
◇価格転嫁、標準約款機能せず
総価契約の性質上、スライド条項の導入は難しい--。民間工事の主要な発注者となる不動産業界が示したこの見解は、建設資材の価格高騰にあえぐ建設業界に厳しい現実を突き付ける。価格変動リスクを受注者が丸のみせざるを得ない現状を肯定してしまえば、経営状況の悪化や下請へのしわ寄せにつながりかねない。官民挙げて取り組む技能労働者の処遇改善の歯車を止めないためには、従来型の商慣習にとらわれず民間発注者と新たな信頼関係を築くことが必要だ。国土交通省の有識者会議「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」の議論などから展望を探る。
国交省の検討会は建設業者や不動産業者など受発注者へのヒアリングを経て、いよいよ議論を取りまとめていく段階に入る。価格変動への対応や重層下請構造の適正化など一筋縄ではいかないテーマが並ぶが、すべては技能者の処遇改善を巡る業界構造上の課題を解きほぐす意味で循環構造にある=図参照。
受発注者間で技能者の適正な賃金を見込んだ契約を実現した上で、元下間で適切に行き渡らせ、最終的な支払いを制度的に担保する。一つでも欠けてしまえば不十分であり、すべてがつながり機能することで最大の効果を発揮する。その先に、持続可能な建設業に向けた道が開けてくる。
先月のヒアリングでは足元の資材高騰への対応に議論が集中した。建設業界は民間工事の多くで資材高騰分の値上げ交渉を申し入れても応じてもらえないと窮状を訴えた。一方、大手デベロッパーはスライド条項の適用を求める建設業界側の動きをけん制。民間工事で主流の総価契約では「価格変動リスクが請負契約に織り込まれている」と説明し、むしろ請負金額を固定していれば各自の専門領域でリスク対処が可能とメリットを主張した。
受発注者間で価格変動リスクを適切に分担する在り方について検討を深めるはずが、その場で浮き彫りとなったのは両者の考え方の隔たりだった。
ヒアリングを終えて複数の委員が指摘したのは、中央建設業審議会(中建審)が作成・勧告する民間工事の標準請負契約約款の機能不全だ。標準約款には経済事情の激変や物価変動などを理由に「請負代金額の変更を求めることができる」との規定がある。ただ実際の契約書では、この規定が発注者の意向で削除・修正されるケースが多い。受注者が一方的にリスクを負わなければならない現実が、急激な資材高騰であらわになっている。
標準約款や、その勧告に倣う形で民間建築関係団体らが作成している民間(七会)連合協定工事請負契約約款の改定などに携わってきた大森文彦弁護士(東洋大学名誉教授)によると、標準約款はあくまで契約書のひな型と位置付けられる。七会約款も「ベーシックな共通のルールをまとめたもので、契約ごとの個別事情は特約などで対応する形になっている」と説明する。
大森氏は公平性を目指す約款の立ち位置に触れた上で、「民間工事では(受発注者の)どちらがリスクを負うか決めるのは至難の業だ」と話す。検討会では標準約款に「充実した中身が既にある」にもかかわらず、なぜ活用されないのか疑問を投げ掛ける委員もいた。引き続き標準約款の活用を働き掛ける一方で、現行の契約慣行をベースに受発注者の対話をさらに促すような新たなルール設定を検討する余地もあるだろう。
総価契約の性質上、スライド条項の導入は難しい--。民間工事の主要な発注者となる不動産業界が示したこの見解は、建設資材の価格高騰にあえぐ建設業界に厳しい現実を突き付ける。価格変動リスクを受注者が丸のみせざるを得ない現状を肯定してしまえば、経営状況の悪化や下請へのしわ寄せにつながりかねない。官民挙げて取り組む技能労働者の処遇改善の歯車を止めないためには、従来型の商慣習にとらわれず民間発注者と新たな信頼関係を築くことが必要だ。国土交通省の有識者会議「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」の議論などから展望を探る。
国交省の検討会は建設業者や不動産業者など受発注者へのヒアリングを経て、いよいよ議論を取りまとめていく段階に入る。価格変動への対応や重層下請構造の適正化など一筋縄ではいかないテーマが並ぶが、すべては技能者の処遇改善を巡る業界構造上の課題を解きほぐす意味で循環構造にある=図参照。
受発注者間で技能者の適正な賃金を見込んだ契約を実現した上で、元下間で適切に行き渡らせ、最終的な支払いを制度的に担保する。一つでも欠けてしまえば不十分であり、すべてがつながり機能することで最大の効果を発揮する。その先に、持続可能な建設業に向けた道が開けてくる。
先月のヒアリングでは足元の資材高騰への対応に議論が集中した。建設業界は民間工事の多くで資材高騰分の値上げ交渉を申し入れても応じてもらえないと窮状を訴えた。一方、大手デベロッパーはスライド条項の適用を求める建設業界側の動きをけん制。民間工事で主流の総価契約では「価格変動リスクが請負契約に織り込まれている」と説明し、むしろ請負金額を固定していれば各自の専門領域でリスク対処が可能とメリットを主張した。
受発注者間で価格変動リスクを適切に分担する在り方について検討を深めるはずが、その場で浮き彫りとなったのは両者の考え方の隔たりだった。
ヒアリングを終えて複数の委員が指摘したのは、中央建設業審議会(中建審)が作成・勧告する民間工事の標準請負契約約款の機能不全だ。標準約款には経済事情の激変や物価変動などを理由に「請負代金額の変更を求めることができる」との規定がある。ただ実際の契約書では、この規定が発注者の意向で削除・修正されるケースが多い。受注者が一方的にリスクを負わなければならない現実が、急激な資材高騰であらわになっている。
標準約款や、その勧告に倣う形で民間建築関係団体らが作成している民間(七会)連合協定工事請負契約約款の改定などに携わってきた大森文彦弁護士(東洋大学名誉教授)によると、標準約款はあくまで契約書のひな型と位置付けられる。七会約款も「ベーシックな共通のルールをまとめたもので、契約ごとの個別事情は特約などで対応する形になっている」と説明する。
大森氏は公平性を目指す約款の立ち位置に触れた上で、「民間工事では(受発注者の)どちらがリスクを負うか決めるのは至難の業だ」と話す。検討会では標準約款に「充実した中身が既にある」にもかかわらず、なぜ活用されないのか疑問を投げ掛ける委員もいた。引き続き標準約款の活用を働き掛ける一方で、現行の契約慣行をベースに受発注者の対話をさらに促すような新たなルール設定を検討する余地もあるだろう。
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