2022/12/28 国交省/持続可能検討会で価格決定構造の転換提示、必要労務費から積み上げ

【建設工業新聞  12月 28日 1面記事掲載】

国土交通省は27日に開かれた有識者会議「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」の第6回会合で、建設工事の契約金額と技能者賃金の価格決定構造を転換する方向性を提示した。公共工事設計労務単価などをベースに適正年収を明示した上で、賃金の支払いに必要となる労務費を見える化。そこから必要経費を積み上げていくステップを図解し、委員らに意見を求めた。最低限の工事原価や技能者賃金を確保する方策も必要との考えから、法制度上の検討課題も例示した。

国交省が会合に提出した資料では設計労務単価相当の賃金が技能者に行き渡らない背景として、労務費の見積もりで元請、下請ともに類似工事や過去実績から算出した「自社単価」を使用することが多いとの調査結果を示した。自社単価の水準が設計労務単価とかけ離れている実態に触れた。

請負金額は自社単価をベースに価格交渉を経て決定する。請負階層の上流から支払われた金額を上限に賃金が決定する構造となっており、適正な賃金の原資が確保できない恐れがあると指摘。従来の価格決定構造の問題点をあぶり出した。

賃金の下支えにつながる仕組みの一つとして建設業法で「不当に低い請負代金の禁止」を規定しているが、受注者や下請が自らの判断で価格を引き下げた場合、業法違反の要件となる取引上の優越的な地位の不当利用には該当しない。全国的な労働協約として民間工事を含め技能者の最低賃金が保証されているスイスの事例などを挙げ、欧米諸国並みの労働条件の順守規定が日本にないとも説明した。

仮に賃金水準が固定化された場合の想定として、一定時間の施工量が大きい施工会社ほど作業時間の短縮効果で労務費を低減でき、価格競争で有利な応札が可能と推測。そうした生産性向上の有効策として「多能工(マルチクラフター)」の普及を取り上げた。多能工化で工種による人員の入れ替えが不要となり、仕事量の繁閑への対応力も増すため安定経営にもつながり得る。技能者にとっても就業機会の増加が期待できるが、多能工に対応した資格や制度がないなど課題が指摘されている現状も紹介した。

非公開で行われた意見交換を前に、長橋和久不動産・建設経済局長は「一定の賃金水準を担保するような仕組みが必要か否か。担保するとしたらどういった方法があるか。率直な意見をいただきたい」と呼び掛けた。

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