2023/06/15 強靱化法改正・上/5か年後継計画が法制化、中長期の事業推進基盤に

【建設工業新聞  6月 15日 1面記事掲載】

議員立法の改正国土強靱化基本法が14日、参院本会議で可決、成立した。改正法では「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の後継となる計画策定を法制化し、中長期にわたり事業を進める基盤を構築する。全国で激甚な自然災害が頻発し、巨大地震の切迫性も高まっている中、国民の生命や財産を守り続けるためには、国土強靱化の取り組みが欠かせない。公共投資を確保し事業の予見性を高めるという点で、建設産業に与える影響も大きい。=2面に関連記事

国土強靱化基本法は2013年12月に制定された。政府は激甚な豪雨災害や地震の多発を踏まえ「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」や5か年加速化対策を展開。一連の対策は、災害時に被害を防止・軽減するなど、ストック効果を発現している。5月に石川県能登地方で地震が発生した際、3か年緊急対策で耐震補強した道路橋が被害を免れたという。

公共投資に目を向けると、国の当初予算で一般公共事業費(国費ベース)は21年度以降6・1兆円で横ばいに推移。これに5か年加速化対策として前年度の補正予算で21年度分は約1・7兆円、22年度分、23年度分はそれぞれ約1・3兆円ずつ積み増した。追加分は全体の約2割に相当する。

こうした効果を踏まえ、地方自治体や建設業団体などからは、5か年加速化対策の着実な実施と後継計画の策定を求める声が根強く、それに応える形で法改正が実現した。

改正法によると、「国土強靱化基本計画」に基づいて展開する施策の「実施中期計画」を政府が策定する。同計画では計画期間や、実施する施策の内容、重要業績評価指標(KPI)を記載。このうち、5か年加速化対策の後継計画に当たる部分として、重点的に推進する施策内容を抽出し、事業規模を明示する。

政府の国土強靱化推進本部(本部長・岸田文雄首相)の下部に会議体を置き、基本計画の改定案や実施中期計画案の作成時にヒアリングを行う。今夏にも決定する基本計画改定案に対する意見も聴取する見込み。改正法は公布と同時に施行する。

法改正を主導した自民党の佐藤信秋参院議員は法案提出を巡り、立憲民主党の杉尾秀哉参院議員ら野党議員にも働き掛けた。杉尾氏は「国民の生命と財産を守るのは政治の大きな使命。防災・減災の観点で必要な公共事業がある」との認識から、法改正に賛同。党内の合意形成に動いた。法案は与野党(一部政党を除く)共同での提案になった。

5か年加速化対策の後継計画の期間や規模は未定。5年15兆円という現行フレームの維持が最低ラインとの見方もあるが、資機材価格の高騰などを踏まえると、同規模を確保しても、実質的に事業に使用できる予算は減ってしまうため、規模拡大は不可欠といえる。

強靱化対策を適切に執行するためにも、それを担う建設産業の発展は欠かせない。公明党で前国土交通相の赤羽一嘉衆院議員は「建設業では仕事の将来見通しが立たないため、若い人の入職や定着、育成がなかなか進まない」と課題を指摘。解決策の一つとして、実施中期計画に期待を寄せる。

事業量の見通しに基づき、建設産業界側も計画的に雇用や設備投資を行って足腰を鍛え、事業を推進。得た利益を人材や設備への投資に再び回していくという好循環の創出が、持続可能な建設産業の実現にも結びついていくはずだ。

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