2023/09/12 スコープ/国交省基本問題小委が中間取りまとめ決定、適切な賃金行き渡りの担保を

【建設工業新聞  9月 12日 10面記事掲載】

国土交通省の中央建設業審議会(中建審)と社会資本整備審議会(社整審)産業分科会建設部会が合同設置する基本問題小委員会(委員長・小澤一雅東京大学大学院工学系研究科特任教授)は、持続可能な建設業を構築する観点から建設業関連制度の見直しを提言した。8日に東京都内で最終となる第5回会合を開き=写真、提言を「中間取りまとめ」として委員長一任で了承した。最終会合では委員から全技能者に適切な賃金が行き渡る仕組みなど、提言に基づく制度改正の実効性を求めるさまざまな意見が出された。

基本問題小委員会は建設業団体や民間発注者、学識者ら幅広い立場の関係者が名を連ねる。5月から月1回のペースで▽請負契約の透明化による適切なリスク分担▽適切な労務費などの確保や賃金行き渡りの担保▽魅力ある就労環境を実現する働き方改革と生産性向上-の3テーマを議論。建設業法など関連する法令や約款などの見直しで対応すべき事項と、法令などの実務的なルールとなる運用の策定や解釈で対応すべき事項に分け中間取りまとめを整理した。

中間取りまとめに対する総論の意見として、岡山県建設業協会の荒木雷太会長は「取りまとめの方向性に異論はない」、不動産協会の仲田裕一企画委員長は「発注者の実情も踏まえ非常にバランスの良い取りまとめになっているのではないか」と総括。芝浦工業大学の蟹澤宏剛工学部教授は「非常に複雑な問題をきれいにまとめてもらった」と評価した。

具体的な制度改正の提言に対しては、適切な労務費などの確保や賃金行き渡りの担保に関する意見が相次いだ。中間取りまとめでは、建設事業者が技能者の適切な処遇確保に努めることを法令化するよう提言している。賃金水準は中建審が勧告する「標準労務費」を参照し、公共・民間建設工事の標準請負契約約款や標準下請契約約款には適切な賃金支払いへのコミットメント(表明保証)や賃金開示への合意に関する条項の追加などを求めた。

荒木氏は「(制度設計は)適切な賃金が技能者に届いているかどうかの確認に力点を置くべき」と指摘。国交省が行き渡り確認の簡易ツールとして建設キャリアアップシステム(CCUS)などICT活用を検討していることに「例えば職人が低賃金について申し入れをする窓口があるかどうか。ICTの活用を待たず職人が声を出せる制度が必要」と提案した。

建設産業専門団体連合会の岩田正吾会長は、中間取りまとめで受注者による不当に低い請負代金での契約締結の禁止が提言されたことに着目し、法令で技能者の処遇確保を努力義務化するのと同様に「法律でしっかり明記してほしい」と要望。「現場の所長と価格交渉する際、不当に低い賃金で契約することが法令違反だと言ってきた。われわれも(職人に)賃金台帳に基づき払うということを相当の覚悟を持ってやってきた」と説明した。蟹澤氏と東京大学大学院工学系研究科の堀田昌英教授は中間取りまとめの記述に触れ、そろって労務費とともに法定福利費も適切な水準を確保していく旨を並列でより分かりやすく明示するよう求めた。

国交省は適切な労務費などの確保や賃金行き渡りの担保に関するさまざまな意見を受け、おおむね理解を示した。行き渡りチェックの速やかな対策強化を求める荒木氏の意見に対しては「ICT活用ツールの整備の前にできることを検討したい」(不動産・建設経済局建設業課)と回答。受注者による不当に低い請負代金の禁止を法令で求めた岩田氏の呼び掛けに関しては明言を避けたが、「最終的に法制化できるかという議論はあるものの、(中間取りまとめ)全体を通じ制度化していく中で法令でやるべきものは法令でやるということを追求していく」(同)と前向きな姿勢を見せた。

弁護士で東洋大学名誉教授の大森文彦氏は、国交省に対し「肝心なのはこの後。どういう処理(制度設計)かによって方向性が相当変わる」と力を込めた。さらに「潜在的な課題は多い」として、基本問題小委員会が継続課題に挙げた▽重層下請構造の実態を踏まえた建設業許可の合理化▽繁閑に応じた労働力の需給調整や多能工の評価の在り方▽建設業許可を要しない小規模工事の適切化-の3点にも適切に対応するよう求めた。

中間取りまとめは最終会合で出た意見を踏まえ、微修正を経て近く最終的に公表する。10月にも中建審に報告される予定だ。国交省は中間取りまとめを受け、建設業法や公共工事入札契約適正化法(入契法)の改正を検討していく。今後は自民党が議論している公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)改正の動向も注視しつつ、2014、19年に続く「担い手3法」としての改正も見据え、24年通常国会への法案提出を目指す。

□国交省基本問題小委の委員(敬称略)□

△青木富三雄(住宅生産団体連合会環境部長兼建設安全部長)△荒木雷太(岡山県建設業協会会長、前全国建設業協会副会長)△井出多加子(成蹊大学経済学部客員研究員)△岩田正吾(建設産業専門団体連合会会長)△榎並友理子(日本アイ・ビー・エム執行役員公共事業統括部長)△惠羅さとみ(法政大学社会学部准教授)△大森文彦(弁護士、東洋大学名誉教授)△小倉範之(全建総連書記次長)△小澤一雅(東京大学大学院工学系研究科特任教授)△蟹澤宏剛(芝浦工業大学工学部教授)△岸上恵子(公認会計士)△楠茂樹(上智大学法学部教授)△仲田裕一(不動産協会企画委員長)△西野佐弥香(京都大学大学院工学研究科准教授)△浜田紗織(ワーク・ライフバランス取締役)△東佳樹(日本建設業連合会総合企画委員会政策部会長)△堀田昌英(東京大学大学院工学系研究科教授)△松島進(東京都建設局企画担当部長)△丸山優子(山下PMC社長)△渡邊美樹(都市再生機構本社住宅経営部次長)。

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