2023/10/05 働き方改革-半年後に迫る中で・3/適正工期のジレンマ渦巻く

【建設工業新聞  10月 4日 1面記事掲載】

◇本当の意味での〝変革〟へ

建設関連各社では、本社や支店など内勤者が現場を支援する動きが加速している。あるゼネコン担当者は、書類作成業務の負担軽減が現場の残業抑制の鍵を握るとみる。

日刊建設工業新聞社がゼネコン35社を対象に実施したアンケートによると、内勤者の時間外労働の上限に関しては「達成済み」「めどが立っている」「めどは立っていないが順調に削減」で8割強に達する。内勤者の働き方改革を進めることで支援力が増強できれば、現場の負担を軽くできる。そうした“全員参加型”の対応が重要となる。

社外との関係にも変化が生じてきた。ゼネコン担当者は「協力会社との関係が変わってきている。一方的に無理を押し付けることはできない」と話す。「共に成長するように考えないと協力会社が離れていく。そうなればますます施工体制が厳しくなる」ためだ。

大手ゼネコンらが参画するRXコンソーシアムなど複数企業が連携して技術開発に取り組む動きも進む。協調して効率化を加速する領域と競争すべき領域とを分ける考え方が、より求められていきそうだ。

上限規制の順守に向けて大きな論点になるのが適正工期だ。あるゼネコン担当者は、民間工事を念頭に「4週8閉所を前提とした工期確保が最優先だ。工程に余裕がほしい」と訴える。別の担当者は「少しずつ前進している」としつつも、「適正工期を確保できないプロジェクトは簡単に対応しないという毅然(きぜん)とした態度で挑まないといけない」と決意を話す。天候などやむを得ない場合に工期延長が認められるような仕組みを求める声もある。

受注済み案件での工期に懸念を示す向きも強い。「いまさら工期の延期を求めるのはなかなか難しい」(ゼネコン担当者)ことも事実。施工余力を十分に見極めた上で、精緻な適正工期を組み立てていけるかが、発注者との信頼関係にとっても極めて重要だ。工事の長期化は工事価格の上昇を招き、発注者にとって事業機会損失につながる。 適正な価格や工期を求める動きが進む一方で、「発注者の理解が得られなければ受注機会を逸失してしまう」という不安も同居する。工期短縮やコスト縮減という自助努力も一層問われることになる。

「いままでと同じやり方では未来はない。仕事のやり方を変えていかないといけない」。ゼネコントップはこう話す。働き方改革は進んでいくが、社会基盤構築や国土強靱化、除雪、災害時の応急復旧など建設業が担う仕事が減るわけではない。安全や品質が絶対条件であることも同様だ。施工力の高さを誇ってきた日本の建設産業の優位性が揺らぐような事態は避けなければならない。

建設産業の力の低下は国力低下に直結する。だからこそ、社会から期待される仕事をやりきる力を持ち続けるための変革が求められる。それこそが残業削減だけにとどまらない本当の意味での働き方改革となる。

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