2024/04/22 国土変動-能登半島地震と測量界の未来・1/測量関係者がデータ収集・分析で活躍

【建設工業新聞 4月 22日 1面記事掲載】

最大震度7を観測した能登半島地震では石川県を中心に甚大な被害とともに、地盤の隆起など大きな地殻変動が発生した。主に半島の外浦地域(日本海側)で隆起した地区が目立ち、液状化被害なども各地で多発。被災地では震災前後で全く異なる地形・風景が広がる地域も少なくない。被災インフラの本復旧、復興まちづくりの動きが本格化する中、測量分野に関わる関係者らの取り組みを中心に、被災地と測量界の今後を展望する。

元日の発災後から産官学の関係者らは被災状況を把握するため、空中写真や衛星、各種センサーによる観測データの収集・分析、現地調査などを進めてきた。国土地理院では震源域周辺の電子基準点で観測されたデータをリアルタイムで解析し、発災当日には震源に近い電子基準点「輪島」(石川県輪島市)が西方向に約1・3メートル(速報値)変動したのをはじめ、石川県を中心に大きな地殻変動を観測したと発表。追加で得られたデータの解析などを進めながら続報を随時発信してきた。

同院の地震対応の前線基地となる北陸地方測量部の白井宏樹部長は休暇で帰省していた静岡県から発災の翌2日朝には同測量部のある富山市に戻った。現地の初動対応として、まずは救助・救援部隊など被災地で活動する関係機関とのホットライン構築に取り組んだ。混乱した状況下での情報伝達を円滑にするため、「被災状況に関わる地理的データを扱うわれわれ地方測量部の存在を認識してもらい、何かあれば連絡する関係や体制の構築に努めた」と振り返る。

電子基準点による地殻変動をはじめ、震源断層モデル、空中写真、斜面崩壊・堆積分布図、デジタル標高地形図、立体地図、災害現況図、亀裂分布図など、国土地理院では能登半島地震の関連データを専用サイトで随時発信している。解析・分析の結果やアップデートされた各種データなど、最新情報を一覧できる。

県の現地対策本部には国のさまざまな機関の関係者が詰めており、情報共有の場としても重要な役割を担う。「いる・いらないはともかく、まずは『このようなデータがありますよ』とプッシュ型で情報を広く知ってもらうことが重要だ」と白井部長。現場からの反応もフィードバックしながら、地理空間情報の拡充などに努めた。

石川県内で17カ所ある電子基準点についても10カ所ほど実際に現地を見て回り、傾斜測定などで問題がないかを調査。異常が確認されたものについては復旧を進めている。

半島という地理的特性に加え、道路があちこちで寸断されたことにより、電子基準点などの現地確認では移動に時間を要し、目的地にたどり着けない箇所もあった。そうした被災状況下では空からのデータ収集が非常に有効だ。民間企業が撮影したものも含め、空中写真は初動期の救助活動や道路啓開、河道埋塞(まいそく)の応急対応などにも大いに役立ったという。

「われわれは人命救助やインフラ復旧などの直接的な被災地支援というより、そうした活動や取り組みを下支えするために必要なベースとなる地図データや空中写真などを迅速に提供する。さらに大きな地殻変動が確認された地域では、位置の基準(国家座標)である基準点の経緯度や標高の値を改定し公表することで、復旧・復興に向けた公共測量を後押しし各種工事等を支えている」

白井部長は測量分野での災害対応の意義をこう説明する。被災自治体と協力・連携した「ライフライン復旧状況の見える化マップ」など、引き続き現場ニーズを見据えつつ被災地で役立つ情報・データの発信に力を注ぐ。

日本測量協会(日測協)の清水英範会長は1月の会合で「能登半島地震では甚大な被害に加え、地殻・地盤の大きな変動に対して復旧・復興を考える際、測量の専門家が大きく活躍しなければならない」と関係者らに呼び掛けた。国土地理院や測量関連団体と協力・連携し、被災地の復旧・復興を後押しする。

本連載は日測協発行の月刊『測量』編集委員会(委員長・布施孝志東京大学大学院教授)との合同企画として被災地を取材し、日刊建設工業新聞社編集局・遠藤奨吾(同委員会編集顧問)が担当する。

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