2024/07/08 土木学会研究小委員会委員長・木下誠也氏に聞く/公共工事の価格決定構造転換を

【建設工業新聞 7月 8日 1面記事掲載】

土木学会の建設マネジメント委員会傘下にある「公共工事の価格決定構造の転換に関する研究小委員会」が公共調達に関する研究成果を報告書にまとめた。工事価格の上限(予定価格)と下限(低入札調査基準価格など)の見直しや、実際の下請価格や労務賃金を受注者側が積み上げた入札金額の設定などを求めた。「難しい問題にしっかり取り組む必要がある」と指摘する同委員会の木下誠也委員長にポイントを聞いた。


--公共調達の課題をどう見ているか。
 「予定価格制度をはじめ、会計法や地方自治法に起因する日本だけの問題がある。価格の上限と下限から落札価格が実質的に誘導される競争環境は、適正な利益や下請価格、賃金の確保が難しくなる。需要の縮小時は実勢価格の調査結果から予定価格が下がり、デフレスパイラルに陥る。需要の拡大時や資材費、労務費の上昇時は入札の不調・不落が起きやすくなる。下限を狙った受注は、労働者にしわ寄せが生じる懸念があり、不調・不落は社会的な損失と行政コストの増加を招く」
 「公共発注者が標準と考える工法からの積算は、施工を工夫してコストを縮減するインセンティブが働きにくく、国際競争力低下の一因になってしまう。実際に必要な費用と積算の乖離(かいり)は、不調・不落の原因になる。建設会社の財務状況の悪化にもつながる」


--小委員会の検討の経緯を。
 「土木学会は公共事業や発注者の役割などについて長く検討してきた。われわれの小委員会は、入札金額が実際の下請価格や労務費などの積み上げから決まる価格決定構造への転換が必要と考えた。価格の上限を拘束する予定価格制度が維持されるのを前提に、予算の範囲内で不調・不落が出にくい予定価格の算出や、調査基準価格を下回る応札などについて2020年度から25回にわたって討議し、成果をまとめた」


--さまざまな提案を盛り込んだ。
 「海外事業を行っている建設会社やコンサルタント、地域建設会社などから意見を聞いた。現行法令の範囲内で運用を拡大し、価格の上限と下限を引き上げて平行移動させるのが現実的だ。参考見積もりの最高額を予定価格に設定したり、適切な賃金支払いを証明書で確認したりする方法などを求めた。価格を7~8%下げないと落札できない競争環境にあり、『(予定価格の)上乗せ分は7~10%が妥当』という意見も明記した」
 「現行法令の中で、いかにソフトランディングさせながら価格決定構造を転換するか考えた。議論の中では『下限をなくしたなら、たたき合いでデフレ以上の影響が出る』という指摘があった。価格の下限の考え方には賛否があるが、『上限の適切化』は外部から大筋で賛意を得ている」
 「(価格決定の)構造転換は副作用を伴うが、不調・不落の防止や労務費の行き渡りが政策課題に挙がり、研究成果を前に進める機会が訪れている。発注者のマネジメント力の強化や人材育成も大事になる。試行を進めて理解を得ながら、価格の上限や下限の機能がほとんど必要なくなり、上限拘束を撤廃できる段階を目指したい」。


《報告書の主な提案》
□施工方法などの事前意見聴取
□最高額の見積もり活用
□工事終了時の適切な賃金支払いの確認と証明
□作業時間・賃金支払いの確認に対する加点評価
□「真に競争力が高い会社」が調査基準価格の制限を受けることなく入札
□価格の妥当性の説明を求める工事の試行
□上限・下限の適切な運用と、申し込みたい価格での入札
□人件費・施工時間データなどの蓄積

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