2024/09/30 生産性や品質の競争へ-徳島のケース・上/労働実態把握で施工の工夫促す

【建設工業新聞 9月 30日 1面記事掲載】

◇直轄工事で試行、改正業法の措置先取り

労働条件の切り下げを許容せず、生産性や品質で競争する健全な環境の創出を目指す--。労務費ダンピングを規制する仕組みを設けた改正建設業法は、持続可能な建設業に向けたビジョンを指し示す。これと共鳴するような取り組みが徳島県内の国土交通省直轄工事で行われている。技能者などの労働時間・賃金の確認を受注者に求め、適正な工事原価の見積もりと、現場の実態を踏まえた生産性向上を促す。担い手確保と生産性向上という建設業が直面する大きな課題に挑む現場の取り組みに迫る。

四国地方整備局徳島河川国道事務所は発注工事で、下請の技能者を含めた現場従事者の労働時間・賃金を確認する試行を始めた。2023年度から特記仕様書に明記し、まずは労働時間を記録した工事日報の提出を受注者に求めている。

「賃金の支払いがルール化されれば、おのずと技術力でコスト縮減を目指す競争になるのではないか」。前事務所長の関健太郎氏(7月から官房技術調査課建設システム管理企画室長)は狙いを明かす。技能者などへの賃金の行き渡りが担保される環境下では、その労働時間をコストと捉える意識が強まる。より少ない人数・時間で施工することが有利に働き、施工の工夫や新技術の活用が促される。

これは関氏が幹事長として関わる土木学会建設マネジメント委員会傘下の「公共工事の価格決定構造の転換に関する研究小委員会」(木下誠也委員長)が6月に公表した提言にも沿った取り組みとなる。

提言では現行の公共調達で落札金額が上限(予定価格)と下限(低入札調査基準価格など)から実質的に誘導されることを問題視。下請と労働者へのしわ寄せや不調・不落を招きやすく、施工の工夫でコストを縮減しようという受注者側のインセンティブが働きにくいと指摘する。打開策として上限・下限の見直しとともに、実際の下請価格や労務賃金を受注者側が積み上げて入札金額を決定する在り方への転換を提案する。

建設現場では施工の工夫の余地や技能者などの処遇が受発注者間、元下間で見えにくいのが一般的だ。関氏の見立てでは、互いに干渉しない「請負契約」の在り方に問題の根がある。さまざまな立場の工事関係者が施工の実態について認識を共有できれば、手を携えた施工の工夫や処遇の確保などにつながり得る。

同事務所の試行では、ある作業や数量をこなすためにかかった人数・時間を、受注者の元請や、実際に作業する下請ができるだけ自ら把握するよう求める。これが出発点となり、次の現場から下請の施工能力も踏まえた形で適正な見積もりを作成できるようになる。

徳島県建設業協会専務理事の小島祥圓氏は、この試行について改正業法の措置内容を先取りするものとの認識を示す。「労務費に関する基準(標準労務費)」をベースとした見積もり・契約規制が施行となれば、特に下請契約で労務費などの内訳をグレーゾーンとするような従来の「購買の感覚」のままではいられなくなる。民間工事も含めた建設取引に「紳士的な商慣習を落とし込む時期に来ている」と受け止める。

この試行も改正業法と同じく、従来なかったルールに基づく契約交渉を業界側に迫る。関氏は健全な競争環境の創出に向け理解を求める。「あるべき姿に近づくための今は過渡期。さまざまな意見があってしかるべき。ただ何か手を付けていかなければいけない」。

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