2024/10/01 生産性や品質の競争へ-徳島のケース・中/自ら価格示す応札行動へ転換
【建設工業新聞 10月 1日 1面記事掲載】
◇下請から適正な見積もり作成を
四国地方整備局徳島河川国道事務所が取り組む現場従事者の労働時間・賃金を確認する試行は、ダンピングが発生していない諸外国の事例にヒントを得ている。例えばスイスは全国的な労働協約で技能者のレベルごとに最低賃金を定めている。日本の公共工事では低入札調査基準価格などを用い、契約金額という「入り口」でダンピング対策を講じるが、スイスでは賃金という「出口」をグリップすることで入札価格の値崩れを防ぐ。
前事務所長の関健太郎氏は、最低賃金などを「決めること」には高いハードルがあるため、支払い実態を「確認すること」から先に手を付けるべきと主張する。スイスでは建設会社の工事日報や賃金明細から賃金の支払いを確認する第三者機関が設置され、労働協約の順守が徹底されている。労働条件の切り下げが許容されないことが広く社会でルール化され、「施工効率を高めなければ競争に勝てない環境にある」。
試行では受注者の負担を考慮し、労働時間を記録した工事日報の提出を求める期間や工種を指定していない。記録する頻度も受注者の裁量に任せる。現状では元請の現場監督が下請の技能者も含めて記録するケースが多いものの、見積もりに基づく下請契約を促すため、下請が自ら記録し施工能力を把握するよう働き掛ける。「適正な見積もりを作るためにも、まずは記録することに慣れてもらいたい」と関氏は説明する。
賃金の確認は下請などの抵抗感が強いと見込まれるため、労働時間の確認を先行的に進める。技術提案評価S型では労働時間・賃金の確認方法を提案してもらう工事も発注している。
発注者の立場では特に、受注者から提出された工事日報の取り扱いに注意する必要がある。労働時間を把握できれば物的労働生産性、つまり「単位時間当たりの施工量」を導き出せる。受注者が物的労働生産性を高めた分を反映し発注者が積算単価を下げるとの疑念を持たれては、むしろ生産性向上と逆行する事態になりかねない。
こうした業界側の不安の声に応える形で、関氏は物的労働生産性だけではなく付加価値労働生産性、つまり「単位時間当たりの賃金・利益」も向上して初めて生産性に関する議論が可能になると訴える。
同事務所では技術提案評価S型で発注する橋梁下部工事で、物的・付加価値労働生産性の定量的な把握方法と、その向上方法の提案を求める試行に取り組む。施工の効率化・省力化の工夫に加え、その効果量の見込み値を提案事項としたのは「業界へのメッセージだ」と関氏。「普段から把握していないと入札時に効果量を示せない。それを見積もった上で入札金額を決めてもらいたい」と話す。
下請を含む現場の施工体制の中で生産性向上効果を把握し、適正な賃金や利益を乗せた上で施工可能な価格を自ら示す。こうした応札行動への転換が、土木学会の小委員会で提言する工事価格の上限(予定価格)と下限(低入札調査基準価格など)の見直しにつながっていく。
四国地方整備局徳島河川国道事務所が取り組む現場従事者の労働時間・賃金を確認する試行は、ダンピングが発生していない諸外国の事例にヒントを得ている。例えばスイスは全国的な労働協約で技能者のレベルごとに最低賃金を定めている。日本の公共工事では低入札調査基準価格などを用い、契約金額という「入り口」でダンピング対策を講じるが、スイスでは賃金という「出口」をグリップすることで入札価格の値崩れを防ぐ。
前事務所長の関健太郎氏は、最低賃金などを「決めること」には高いハードルがあるため、支払い実態を「確認すること」から先に手を付けるべきと主張する。スイスでは建設会社の工事日報や賃金明細から賃金の支払いを確認する第三者機関が設置され、労働協約の順守が徹底されている。労働条件の切り下げが許容されないことが広く社会でルール化され、「施工効率を高めなければ競争に勝てない環境にある」。
試行では受注者の負担を考慮し、労働時間を記録した工事日報の提出を求める期間や工種を指定していない。記録する頻度も受注者の裁量に任せる。現状では元請の現場監督が下請の技能者も含めて記録するケースが多いものの、見積もりに基づく下請契約を促すため、下請が自ら記録し施工能力を把握するよう働き掛ける。「適正な見積もりを作るためにも、まずは記録することに慣れてもらいたい」と関氏は説明する。
賃金の確認は下請などの抵抗感が強いと見込まれるため、労働時間の確認を先行的に進める。技術提案評価S型では労働時間・賃金の確認方法を提案してもらう工事も発注している。
発注者の立場では特に、受注者から提出された工事日報の取り扱いに注意する必要がある。労働時間を把握できれば物的労働生産性、つまり「単位時間当たりの施工量」を導き出せる。受注者が物的労働生産性を高めた分を反映し発注者が積算単価を下げるとの疑念を持たれては、むしろ生産性向上と逆行する事態になりかねない。
こうした業界側の不安の声に応える形で、関氏は物的労働生産性だけではなく付加価値労働生産性、つまり「単位時間当たりの賃金・利益」も向上して初めて生産性に関する議論が可能になると訴える。
同事務所では技術提案評価S型で発注する橋梁下部工事で、物的・付加価値労働生産性の定量的な把握方法と、その向上方法の提案を求める試行に取り組む。施工の効率化・省力化の工夫に加え、その効果量の見込み値を提案事項としたのは「業界へのメッセージだ」と関氏。「普段から把握していないと入札時に効果量を示せない。それを見積もった上で入札金額を決めてもらいたい」と話す。
下請を含む現場の施工体制の中で生産性向上効果を把握し、適正な賃金や利益を乗せた上で施工可能な価格を自ら示す。こうした応札行動への転換が、土木学会の小委員会で提言する工事価格の上限(予定価格)と下限(低入札調査基準価格など)の見直しにつながっていく。
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